多くのピアニストは、技巧と音楽性の両立に悩んでいるに違いない。どちらか一方が欠ければ一流にはなれない。どちらも精進する事で、ある程度までは高める事が出来るが、どこかで限界にぶちあたる。アマチュアの場合は、多くのケースは技巧の壁に先にぶつかるんじゃないだろうか。「技巧はあるんだけど、音楽表現がうまくできなくてね」な〜んていえたら、かっこいい。
コンピュータで、音楽を演奏する。それを最初に体験したのは、日立のベーシックマスターLevel Iという機械だったと思う。6802というMPUでクロックが約760kHz。単音しか出なかったが、その可能性に当時は大変感動し、デパートのマイコン売り場に弁当持参で熱中した。
それからちょっと経ってからZ80買ってきて自分でマイコンを作り始める事になる。そのころPSG(プログラマブル・サウンド・ジェネレータだったかな)という40PINのICが出回っていて、このICひとつで3重和音が演奏できる事から、早速これを4つ買ってきて、音を鳴らして遊んだ。4つ買ったのは3x4=12和音で、これだけあれば、ほとんどのピアノ曲が演奏できるからだ。
さすがに当時の音源では音色も貧弱だったのと、このPSGは特に高音部では音ずれがひどくて、音楽としては今一歩だった。とはいえ、何しろコンピュータなら、技巧の問題が解決するのだからすばらしい。
その後、電子ピアノが登場し、これにMIDIが付くようになって、音色に関しても申し分無くなった。大学の頃は、KORGのC-7000という電子ピアノを使ってコンピュータで色々な曲を演奏させた。それらは、今でもここに置いてある。
とてつもない技巧を手に入れると「技巧に遊ばれる」という事が起きる。音楽性が付いていかないという状況に愕然とする。まず楽譜通りに入力した後、音の大きさ、発音のタイミング、テンポ、ペダリング、これらを1音1音細かく調整して、音楽性を表現するのだ。まさに気の遠くなる作業。コンピュータは何度でも、こちらが指定した通りの演奏を苦もなくやってのける。が、それ以上の事はやってくれない。いったいどういう発音のタイミング、音の大きさを組み合わせれば、自分の思った音楽が表現できるのか、これが難しい。特にロマン派後期、ショパンなんかは非常に難しい。ショパンのプレリュード、最終曲はショパンの祖国ポーランドがドイツに陥落するのを表現した曲なのだそうだ。非常に悲劇的な曲だ。技巧的にも難度が非常に高い。特に高速な三度二重音のスケールの部分なんかは、とても手では弾けない。そこで、コンピュータでと思ったのだが、幾らデータをいじっても自分の思った通りの音楽にならない。結局当時は途中であきらめてしまった。
この曲は「荒々しく」弾かなければならないのだが、そういうのがどうしても表現できないのだ。ベートーベンの熱情を入力した時にも、同じ困難を感じたのだが、ショパンでの困難さの方が遙かに上だ。
負け惜しみでツールのせいにすると、自分のようなデータを作るのに適したMIDIシーケンサというものが市場に存在しなかった。時が解決するかと思いきや、今現在に至るまで良いツールは出てこない。そもそもこんな事をやろうと思う人間なんて、ほとんどいないのだろう。
いつか、自分でMIDIシーケンサでも書いて、ベートーベンのソナタを全曲演奏させてみたいと思いつつ、そのままになっている。
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